ひつじと四重奏

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陽気なギャングが地球を回す—伊坂幸太郎:祥伝社文庫

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「ロマンはどこだ」
一人言のような呟きを合図に、四人の銀行強盗たちは華麗な〝仕事〟を始める。

 

四人の仕事は実に素早く、鮮やか。そして饒舌である。

というのも、四人の中にはいくらでも演説をやる事が出来る人間がいるのだ。

居合わせた一般人にこれでもかと演説を聞かせ、時間を稼いでいる間に計画立案者と、スリの名人がてきぱきと素早く金を袋に納めていく。

さて終わりだと外へ逃げ出せば、ちょうど良く盗んできた車に乗った仲間が待っている。

居合わせた人々が通り過ぎていった人たちは強盗なのか上手く判別できず、ポカンとしてる間に終わっているのが理想である。

本書はそんな飄々とした仕事ぶりの強盗たちがのんびりお喋りをしながら騒動に巻き込まれていくお話しだ。

 

私はミステリーが好きで、今までもたくさんとは言えないが少しくらいはミステリー小説を読んできた。

しかしその中には一作も、強盗が探偵役をやる作品はなかった。

読む前はどんなに極悪なんだろうかと不安もあったが、そんな気持ちはすぐになくなってしまった。

極悪という感想を抱くには、彼らはあまりに自然で親しみやすかったのだ。

 

仲間で集まって冗談を言い合ったり、強盗に入る時以外でも一緒に行動していたり、おまけに四人のうち二人は学生からの付き合い。

まるで同じ趣味のもの同士集まって仲良くしているだけのような集団に見えてくる。

しかし、いざ仕事が始まると様子は変わり、ゆるっとした雰囲気は真剣なものになる。


また、彼らが目的のために集まっただけの強盗集団ではないところも見所の一つだ。

作中仲間が面倒ごとに巻き込まれて行くのを当然と助けようとするのである。

彼らが非情な私利私欲を満たすための集まりではなく、血の通った人間の繋がりであることがわかる部分だ。


本書には、あらゆるところに伏線が散らばっていて、回収された時にはここで出てくるのかと驚くことが多く読んでいて面白かった。

どんな情報も全て意味があり、作り込みの細かさが感じられる。


読了後には、四人の強盗に居合わせた一般人のようにポカンとしてしまうほど、鮮やかに仕上げられている小説だった。