ひつじと四重奏

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狼の幸せ パオロ・コニェッティ

 

恋人と別れた作家の男、ファウストが昔父と訪れたイタリアンアルプスのレストランでコックとして生活を始めてからの一年間を丁寧に描いた山岳小説。

ファウストは一回り以上年下のシルヴィアと関係を育みながら、雄大な山々の側で生きる人々との交流を通して徐々に蓄積していた疲れから回復し、生活のリズムを取り戻していく。

登場人物たちに細やかな命を吹き込んだこの本は、最初こそカタカナが多く読みづらさを感じたものの、気が付けば読み手の心にイタリアンアルプスの冷えた空気を呼び込みこちらまで大自然に触れる旅をしたような気分にさせてくれた。

若い恋人との関係、樵たちの生活や木々の匂い。季節折々の姿を見せるライチョウやシカをはじめとした生き物。山に戻ってきた狼たち。
見渡せば不動の大きな大きな母なる山がある状況に、憧れを抱かずにいられない。

新しい作品で、作者は山とミラノの二拠点生活を続け、春夏秋は山で過ごし、冬には山でのひらめきを元に本を書いてるそうだ。この本はそんな自由な作者がコロナのロックダウンでミラノから出ることができなかった燻りの時期に書かれた。
解説によると、富士山と俗世の何気ない生活の風景を描いた葛飾北斎富嶽三十六景の中から毎日一枚ずつ鑑賞しインスピレーションを深めたそうだ。
そのため、本作も長編作品でありながら中身は全三十六篇の場面の繋がりからなる短編小説のような作りになっている。

三十六ページの写真集を眺めるように楽しむこともできるゆったりとした本だった。